【完】『道頓堀ディテクティブ』
東郷忠。
プロフィールには「宮崎県日南市生まれ」とあり、
「飫肥城下で育つ」
ともある。
その後は神奈川の大学で絵画を学び、しばらく鎌倉で活動していた。
が。
大阪に移住してから「晁景」で賞を取り、現在に至る…というのが概略である。
どうやら神奈川にいた頃に出来た娘らしい。
そこで。
記録を元に、穆はまりあを相棒に新大阪の駅を目指しミナミを出た。
鎌倉駅に着くと、江ノ電で極楽寺まで乗って、駅から小学校を背に階段道を昇って、小路を登った先の古い民家にたどり着いた。
しかし。
そこは今はレストランに変わっている。
東郷から渡された写真と、建物は変わらない。
すると。
「あの…」
オーナーとおぼしき女性が声をかけてきた。
「あ、すいません」
ちょっとうかがっても大丈夫でしょうか、と石段を登って穆が名刺を渡した。
「実は画家の東郷忠先生の足跡をたどってまして」
こちらにたどり着いたんです、とありのまま説明してみせた。
「…東郷先生が住んでおられたんですか」
「関西に移住される前ですから、何十年も前らしいですけど」
とりあえずお入りください──オーナーは招じ入れた。