【完】『道頓堀ディテクティブ』

応接室に通された穆とまりあが待っていると、

「こちらです」

と一枚の写真を示し、

「こちらが前のオーナーでいらした、鷹岡瑠璃子さんです」

すでに九年前に亡くなって、墓は長谷寺の近くの光則寺にあるとの話であった。

「鷹岡さんが東郷先生の娘さんであることは聞いてました」

オーナーによると、鷹岡瑠璃子の母親と東郷忠は無名時代に同棲していたが、それが親に露見して引き離されたあと、妊娠が判明した…というのである。

「そこで東郷先生には連絡せずに出産されて」

それが鷹岡瑠璃子なのだという。

「ではなぜこの家が…」

「のちに別の方と結婚されたあとこの家を買って、レストランにされたんです」

ただ。

「東郷先生が住まわれてたのは知りませんでした」

思い入れがあったのであろう。

オーナーは、

「ご主人は銀行の方でしたから」

と言った。

その父の姓が鷹岡で、

「ただご主人が早くに亡くなられたので、ずいぶんご苦労はされたようです」

それでも女手ひとつで娘を育てたのである。

「お嬢さんなら東京にいますよ」

鷹岡瑠璃子に娘がいた、というのは衝撃である。

現在は大所帯のアイドルのグループに入って、時おりテレビに出たりもしているとオーナーは説明した。

「よろしければ私の方から紹介状を書きますが」

「こちらとしては、書いていただけると大変ありがたいです」

名刺の裏にオーナーはサラサラと紹介状を記すと、

「こちらからもお電話しておきますので」

と言い、穆とまりあはレストランを辞去した。



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