【完】『道頓堀ディテクティブ』
5 木槿(むくげ)殺人事件
幾日か、過ぎた。
アシスタントがまりあに変わってからほどなく、寺内健吉が早期退職制度で記者を辞めることになり、部下の一瀬はるかと二人で挨拶に来たので、
「ここじゃ何ですから、喫茶店で冷コーでも飲みながら話しませんか」
と穆は言った。
千日前の花月のそばの喫茶店に行くと、
「あ、寺内さんじゃないですか」
と珍しく、声をかけてきたスーツの女があった。
「オゥ」
寺内は軽く手を上げて会釈してみせると、
「出くわしたついでに紹介しとく、こいつは久保谷穆。仕事は探偵や」
こっちは大阪府警の花島茉莉江ちゃんや、と引き合わせてくれた。
「寺内さん、茉莉江ちゃんはないですって」
「しゃーないやろ、事実なんやから」
これでも巡査部長さんやから世の中でいう刑事ってやっちゃで、と寺内は上機嫌そうに言った。
「久保谷です」
名刺を差し出した。
「探偵さんなんて実在するんですね」
突き放したような言い回しを茉莉江はしてみせると、
「まぁお世話になることはないと思いますけど、よろしくお願いします」
木で鼻でもこくったような口ぶりで言った。