【完】『道頓堀ディテクティブ』
帰路…。
「穆さん…あの花島茉莉江だかって女デカ、あたしあんなの大っ嫌い!」
相当まりあは腹立たしかったのか、周りに聞こえよがしな声で怒鳴り散らした。
「まぁまぁ、そない怒らィでも」
「だいたい警察官って、こっちが命懸けで相談しても、民事だからって動かないから大嫌い!」
何かあったらしい。
が。
それは本題ではない。
「とりあえず、ミルクホールでも行こか」
吉本会館から少し下がった、ミルクホールというビリヤード場に二人は寄った。
キューで白い球を突くまりあに、
「まぁ本町署ってことは所轄やないから、たぶんもう会うこともないやろけどな」
名刺を見ながら穆は言った。
考えてみれば。
穆やまりあがいるミナミは周防町署の管轄で、長堀橋から北は本町署の管轄となる。
「だいいちミナミは所轄が周防町署やから、いくら何でも管轄が違うのに捜査は出来んやろ」
ゆったりとした言い方で、穆はまりあを諭すように言った。
白の球を突いた。
黄色の球がポケットにおさまってゆく。
「ビリヤードは物理や」
距離に応じた力で正しい向きに突かんとポケットに入らへん、と穆は言って突いてみせると、はじかれたはずみで青い球がポケットに入った。
「要は無駄がないねん」
まぁ人間社会は無駄だらけやから逆におもろいねんけどな、と再びキューを構えた。