【完】『道頓堀ディテクティブ』
日が、暮れてゆく。
あちこちでテレビ局の照明が焚かれ、ヘリコプターは相変わらず煩わしいぐらい飛んでいる。
「多分、このままでゆけば突入は明け方かと」
まずヘリを飛ばさないよう通達が出ると、音は静かになった。
いくら大阪城と目鼻の先の堺筋本町とはいえ、マンションもあるのである。
こうして。
時を、ひたすら待った。
夜中の二時を回った頃、特殊部隊がガス会社の社員と共に、マンホールから銀行目指して消えた。
しばらくして。
ガス会社の社員は出てきた。
「ガス停止完了です」
すると。
特殊部隊は給湯室から潜入できたらしく、合図の青いライトが光った。
パン、パンと乾いた音で、車で仮眠をとっていた穆とまりあは目が覚めた。
「…突入したな」
懐中時計を見た。
「次は煙が出るぞ」
穆は懐中時計の盤面にだけ目をやっている。
割れた窓から煙が出てきた。
まるで文字盤の針が終わらせるかのような態度で、突入の様子を感じていたらしい。
「人質が全員、助け出されました」
ワンセグの中継で、事態が分かってゆく。
「あとは身柄の確保か」
まりあは少し寝ぼけ気味に、
「捕まったんですか?」
と訊いてきた。
「まぁ、時間の問題やろな」
次に穆はツイッターのタイムラインを開いた。
「夜中やから、宣伝ばかりで反応はないな」
およそのことを確認すると、
「あとは容疑者がどういう人物か、や」
とだけ言うと、興味のなさそうな顔で再び眠り始めた。
まりあは穆が無神経なのではなく、犯人の逮捕より何か違うものに関心を抱いているように感じられた。