【完】『道頓堀ディテクティブ』
初公判の日。
歯医者に行っていた穆に変わって、傍聴したのはまりあである。
元アイドルの起こした事件という話題性もあって、朝からワイドショーやら新聞やら報道陣が来ていて、鉾流橋の裁判所の一帯は騒然たる空気ではあったが、被告席に真っ白いブラウスと黒のジーンズというみなみがあらわれると、一瞬ざわついたあと静粛になった。
翌日の新聞は揃って、
「美人すぎる被告」
という見出しが踊り、ワイドショーではうってつけと言わんばかりに、評論家が得たりといった顔つきで何やら話している。
が。
穆は違う視点で見ていた。
「これは俺の想像の範囲やけど」
と前置きした上で、
「貴島みなみは、ああしたくてしたんとちゃうような気がしてしゃーないねん」
同情、というより考察に近い。
依頼人に肩入れすることをいさぎよしとしない穆は、
「あとはどうやって、鷹岡まなみと引き合わせるかやな…」
こればかりは手がない、というような顔で、思案するときの癖で口許を触りながら、遠くに目線を投げやっていた。