† of Thousand~千の定義
外で、ごろりという音がした。

安いフローリングの上を、ドラム缶が転がったような、低く響く音だ。

いよいよ、雨が降るらしい。

窓の外をちらりと見ていると、狐目が、くつくつと笑った。

「見ず知らずの者から出された茶を飲み、あまつさえよそ見をする……なかなか、太い精神をしているようで」

「それは批評か? 称賛か?」

「称賛と、受け取っていただいて結構ですとも」

「そうか……」

話を進めるでもなく、危害を加えるでもない男に、立ち上がって蛍光灯の紐を引きながら、四度目、質問を繰り返す。

「私を称賛するならば、そろそろ本題に入ろう。お前はなんだ? 悪魔か? 天使か? 妖怪か?」

パパッ、パッと灯った白に照らされる男の顔は、能面のように蒼白。

白面狐目の男は、私を見上げ、ようやく名乗る。

「私は協会の者でしてね。名前は、一ツ橋と覚えてもらえますかな」

「下は」

「一ツ橋、それだけで覚えてもらいましょう。魔術師の卵、草薙仁さん」


そして雨が窓を打ち始める。

私達の会話は、とつぽつと始まった。
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