† of Thousand~千の定義
定義とは、存在を分類する大切な枠組みだ。

そして私は、その枠組みに順応し、一ツ橋の手を握ることが筋なのだ。

なのだが、

「断る」

私の中にある『二つ目の定義』が、それを拒み、許さない。

持ち上がっていた一ツ橋の手が、力なくわずかに下ろされる。

「ほぉ……それはまた、なぜ?」

単純な、野次馬のような興味を見せる彼に、一言、

「簡単だよ。私には『魔術師』と同等に、『罪人』の定義がある。だから、教会には入れん。入る気になれないね」

そうして立ち上がり、二十分前に閉めたドアのノブに、手をかけた。

一ツ橋へ、スイと手を動かしてみせる。

「悪いが、研究なら自分でやる。それが私の魔術定義だ。お引き取りを」

口八丁で粘られるか、教会という『組織』の強味を利用して脅しでもかけてくるか――

そう思ったが、

「そうですか」

一ツ橋は、素直だった。

「では、即刻おいとましましょうかね」

それはそれは、

「!」

言葉ひとつで忽然と、まばたきの合間に姿を霞ませるほど、イヤに呆気なかった。
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