† of Ｔhousand～千の定義

私は一ツ橋に、私の技術を完璧に模倣された。五年ほどかじった程度の魔術師の力量など……たかが知れている。

事実としてその実力差を理解できても、まったくもって……まったくもって……

「腹が立つ」

そう、言霊に乗せて憂さ晴らししなければ、やっていられなかった。

雨は夜半ほどになると上がり、雲がいったん払われた空には、三日月がたゆったっていた。

ラジオの予報によれば、明日の朝までは晴れるらしい。

私は、晩飯も取らずに、行動を開始した。

テーブルを部屋の中央から退かし、東西南北それぞれに見合った位置へ、一ツ橋に発見されたオブジェを据える。

そうして部屋の中央に、アミダくじのような地図を置いた途端――

床に、紅蓮のラインが走り浮かんだ。

「我、草薙仁――ここに領域を定義する」

私の言葉に呼応し、紙面の一文節が宙へ踊り出し、光る。

と同時に、部屋の風景が薄れ、霞み、切り替わる。

秒の間に私は、床の魔法陣ごと、アパートの屋根に移動していた。