† of Thousand~千の定義




長沢の話をまとめると、こうだ。

昨夜から今日の未明にかけて、この近隣で不審火の通報が相次いだらしい。

それも、だれもが尋常ではないと思うほどの件数。

不審火とはずいぶん柔らかい言い方であり、実際目撃した人間によれば、爆発というほうが相応しいそうだ。

目撃者のひとりが長沢であり、彼の語りから、その炎の質は並大抵ではないと推し測れた。

しかしその不審火、目を焼くほどの爆発が一瞬きりで、特別なにかが燃えたり壊れたり、死傷者が出たでもないらしい。

事実、未明まではただの不思議な発光現象だろうと、警察の捜査も大したものではなかったそうだ。

私には長沢が、なにを目撃したか、警察に熱く訴える場面が易々と想像できた。

相手をした警察が苦笑いばかり浮かべただろうことも。

しかし、被害なき不審火の相次ぐ中、異例が現れた。

私の住むこのアパートのみが、その炎によって実害を被っていたのだ。

つまり――

(不審火の正体はキマイラだな)

あの魔獣が未だに、この町にいるという証明だった。
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