† of Thousand~千の定義
私の言葉は、長沢の言う通りかわいげがない。

しかしそれでもこの男は、

「無愛想な仁からその言葉を聞けたしな。まあ、帰るよ」

そう満足してくれるのだから、まったくしょうもない。

ヘンなところで引き際がいいのも長沢の特徴だが……ひとり暮らしの天涯孤独な私にとって、一抹のさびしさもある。

それを知ってやっているのだろうか?

だとしたら――周到なヤツだ。長沢め。

長沢とは同じ大学、同じ学部、同じサークルだ。明日になれば、またイヤでも顔を合わせられる。

それなのに、階段を上がったところ、部屋へ入る直前に見送った彼の背中が少し恋しくなるのは……やはり、彼を好きだからだろう。
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