薔薇の眷族
 ガサガサと茂みが鳴る。
 この数年で慣れ親しんでしまった音――できれば聞きたくないと思って早数年経ってしまったわけだが。
 音の発信源はまだ少し距離があるが、今日も喧騒に付き合わされるであろうことを予想して、ルディは小さく溜息をついた。

「やっと見つけたわ!」

「おや、見つかってしまいましたか。」

「まあ、わざとらしい。聞こえていたでしょう?」

 そう、聞こえぬはずがないのだ。
 ルディは狼の血を引く獣人であるのだから、人よりも聴覚は優れているのである。
 艶やかな銀髪の合間から覗くその耳が確固たる証である。
 そして、薔薇の垣根の間を探し回る足音や、葉に触れる音を聴き、手が離せないほどに忙しい時にはこの庭師が逃げてしまうことも、ベルは知っていた。

「いったいどこを通ってきたら、頭に葉をつけてこれるんでしょうね、ベル?」

「えーっと、その……あ、でも、傷つけてはいないわよ!」

「あたりまえです。」

 なかば呆れながらも、髪に絡んだ葉をそっと取ってくれる、庭仕事で少し荒れた指先は優しい。
 幼い頃見つけた、いくつかある庭への抜け道のひとつは、こうして頭に葉が触れるような鬱蒼とした木々の間にあるのだが、ベルがあえてその道を使う理由の一つが、こうしたルディの優しさに触れることであるとは、本人は気付いていないだろう。

「さあ、わたしにも手伝わせてちょうだい!」

「まったく、ベルはお転婆ですね。」

「もう!ルディったらひどいわ。わたしは薔薇が好きなだけよ!」

「知っていますよ。ほら、手袋を。」

 クスリとからかいの笑みをこぼしながらも、ベルの手が傷付かないようにと厚手の手袋をきちんと用意してくれているのもまた、ルディの優しさである。
 こうしてお転婆だとからかわれることもあれば、庭仕事を手伝う中で、ミスをすれば当然叱られることもある。
 それでもベルが抜け道を使ってでも庭に出て、広大な敷地の中で時間の許す限りルディを探すのは、こんな風にちょっとした優しさを見せてくれることを知っているからだった。

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