せいあ、大海を知る
――
―――
「…か……ち………千夏!」
揺さぶられ、名前を呼ばれて、自分が眠ってしまっていた事に気がついた。
ゆっくりを身体を起こしてキョロキョロと周りを見回すと、見慣れた光景が広がっていた。
黒板に、机、そして目の前にいるのは大事な人。大好きな人の、大好きな声に、バクバクと強く早く脈打つ心臓が、静まっていくのが分かった。桂馬の声を聞くとすごく安心する。
「桂馬……」
「千夏?どうした?」
目が合うと桂馬は一度目を見開いて、驚いた顔をした。そして、そっと腕を私の方へと伸ばし、目の下を撫でられた。
桂馬の指の感触以外に、頬に感じるものが存在した。
……あれ?私、泣いてた。頬を伝っていたのは、涙だった。
久しぶりに昔の夢を見ていたからだろうか。始めて自分が異常だと感じたあの日の夢を。
みんな忘れてしまったけれど私の中に鮮明に残る記憶を。
「ごめん、なんでもない」
心配掛けたくなくて、そう言って誤魔化した。けれど桂馬は納得していないのか、ムッとした顔をする。
「……今から、生徒会室行くぞ」
力強く頭に掌を乗せて、不機嫌に彼は言った。
2人きりなら、私の事を話せるかもしれない。そう思って、うんと頷いた。
桂馬には話を聞いてほしいし、何よりきっと彼も私と同じ人。
だってそうじゃなきゃ可笑しい。
私だけが異常なら、朝和樹君の話しを私がした時点で、彼の存在が消えていることに気づいたはずだ。それなのに沙耶ちゃんが登校して来るまで、桂馬とは普通に話しが出来ていた。
久しぶりに動揺して、不安になったのかもしれない。桂馬と離れるのが嫌で、前を歩く桂馬のシャツの裾をぎゅっと握り締めたまま、生徒会室へと向かった。