せいあ、大海を知る
「事件があったとか、そういう事はないんだよね。体験として1番衝撃的だったのはじいちゃんがいなくなった時だったから……お母さんはいつの間にかいなくなっていた。何があったのかも知らないし、分からない。誰にも聞けない、誰も知らないから」


そう誰も知らないこと。だから私が知ることももちろん出来ない。


話すために思い出すと、辛かった気持ちと、何も出来ない自分に感じる不甲斐ない気持ちを思い出してしまう。胸が締め付けられて、苦しくなる。


「中学3年生の時、学校から帰ったらもうお母さんはいなかった。毎日お帰りなさいって笑顔で迎えてくれていたお母さんは、存在しなくなってた。いなくなったことも辛かったけど、知らない振りして過ごさなきゃいけないのが1番辛かった」


肉親がいなくなったというのに、平気な顔をしてお父さんと顔を合わせなきゃいけないというのは、本当に辛かった。今でもお母さんのことを思い出すたびに苦しくなる。


誰にも悟られるわけにはいかないから、1人でひっそりと泣いていた。


それに、平気なふりして過ごせる自分が嫌い。薄情な人間だって、最低な人間だって、自分を責めたくなる。


「……ヒック………ヒック……ごめん、また泣いちゃって」


桂馬を困らせるだけだから、泣いてはダメだと頭では分かっているけど、感情がついていかない。


止めなきゃと焦れば焦るほど、思いとは逆に溢れてくる。


やばいな、今日はどうしちゃったんだろう。涙腺が緩すぎて困るな。
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