せいあ、大海を知る
「我慢しないで、泣いてよ。辛い事も俺には隠さないで大丈夫だから」


どうしようかと途方にくれていた時、ぎゅっと抱きしめられて、涙腺が更に崩壊してしまう言葉を貰った。


嬉しいけど……嬉しいけど、ずるいよ。


これ以上好きにさせて、どうしたいんだよ。


ただでさえ同じ境遇であることが発覚して、桂馬に強い親近感と運命的なものを感じているっていうのに。


どうやっても涙は堪え切れなくて、目の前にある桂馬のシャツを握り締めた。





――
―――


「そろそろ落ち着いた?」


嗚咽が漏れなくなった頃に頭上から優しい声が降りてくる。


「ごめんね、ずっとつき合わせちゃって」


とっくに昼休みは終わってしまっている。彼の腕の中にいるときに、遠くからチャイムの音が聞こえた。


私なんて置いて、教室に戻ってもよかったのに、桂馬はずっと傍にいてくれた。


「放っておけるわけないだろ」


「……痛っ、ちょっと」


摘まれてしまった鼻に、咄嗟に声をあげてしまった。人がしんみりと話をしていたのに……と抗議の声を続けようとしたけど、それはやめた。


だって、桂馬の顔は真剣そのもので、どちらかというと怒っているような表情だった。
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