せいあ、大海を知る





「俺さ、納得いかないんだけど」


帰り道、まだぶつぶつと桂馬は何かを言っていた。先ほどの教室でのやり取りの後ずっとこんな感じ。


桂馬と一緒に勉強したいな、その一言でしぶしぶ納得した桂馬だったけど、成績表の見せ合いっこをしてから、また少し桂馬は不機嫌だ。


「明らかに千夏は勉強してないのに、課外もない上に、俺より成績いい科目が多いのも納得いかねー」


彼の呟きになるほどと不機嫌の理由を知る。


私たちの通う学校は、夏休み中の課外などは特に存在しない。けれど、例外がある。


成績が芳しくなかった人たちは、成績底上げのための課外に強制参加しなければならない。私も桂馬も成績はいい方だから課外は出席する必要がない。いい事のはずなのに、それが納得いかないらしい。


成績は桂馬の方が少しだけ上。だって桂馬は学年でもTOP3に入る成績だし、生徒会にも入っている彼は役職上成績をあまり落としたくないという。


桂馬に比べると私は劣るけど、それでも学年で10番前後をキープしている。その点が桂馬が納得がいっていない点。度々言われるから、間違いないと思う。


意識して勉強を頑張っている桂馬と、教科書も持って帰らない怠惰な私。自分の方が頑張っているのに、成績に大きな差がないのが不満らしい。


「桂馬が勉強見てくれているおかげだよ。一人だったらもっと勉強しないと思うし」


難しい顔をして隣を歩く彼のそう告げた。すると、みるみるうちに照れたような嬉しそうな顔になった。


これは本当に感じていること。もともと勉強は嫌いじゃないけど好きでもない私は一人だったらまず勉強すらしない。けれど、頑張っている桂馬を見ているから一緒にやってみようかなって気になる。


だからなのか、桂馬と付き合うようになってから、成績はぐんと上がった。


成績が良くなってお父さんも喜んでくれていて、それが私はすごくうれしい。だって唯一残っている家族だから。私にはお父さんしかいなくなってしまったから。


そういう意味でも彼には感謝している。
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