せいあ、大海を知る
――ガチャ


もう見慣れてきた玄関を開ける桂馬に続いて、私も家の中へと足を踏み入れた。


「ただいま」

「おじゃまします」


2人の声が玄関に響いた。ふと足元を見ると、今日は多くの靴が並んでいた。私が中西家を訪れるようになって、こんなにも玄関に靴があるのを見るのは初めてかもしれない。


いつも、桂馬のお母さんかお父さんどちらかしかいないから。そういえば、と2人揃っているところを見たことがないなと気が付いた。


「お帰りなさい」

「お帰りー」


予想していた通りに奏太君はすぐに私たちを出迎えてくれた。いつもなら奏太君のテンションに合わせて話を始める私はそれが出来ずにいた。


奏太君を抱えて現れた人物に、私は固まってしまった。だって初めて見る人だったから。


もしかしたら親戚の人かもしれないと隣に立っている桂馬の顔を伺うと、ぴしりと完全に固まってしまっていた。


桂馬の反応からするに全く知らない人なのだと、確信した。じゃあ一体、目の前の誰なのだろうか。


当たり前のように奏太君は抱っこされているし、私たちの事を知っているかのような出迎え方をするし、なんだか嫌な予感がしてしまう。


「兄ちゃんも千夏ちゃんもお帰り。今日はねパパが早く帰ってきたからいっぱい遊んでたよ」


「……」

「……」


ニコニコとしている奏太君の口から出た言葉に、私たちは首だけを動かして、無言のまま見つめ合った。桂馬の顔は驚きを隠せていなくて、目を見開いて口も少し開いたままだった。きっと私も同じような顔をしているんだろうと、どこか冷静に考えていた。


目の前の現実を受け入れたくないときに限って、他人事のように、いつも以上に冷静になれてしまう。
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