せいあ、大海を知る
落ち着いて話をして、これからも今まで通り過ごしていくしかない、という話で纏まった。嫌でも、認めたくなくても、知らない人を父として扱っていかないといけない、桂馬にとって胸が張り裂けそうなほど辛い事だと思う。


けれど、私たちはそうするしかない。それが世の中の当たり前で、私たちが違うだけだから。


だから2人で確認し合うことで、気持ちを心の奥底へと押し込んだ。声に出すことで自己暗示をかける。決心が揺るがないように。





――コンコン


『もういい?遊ぼうよー』


私たちと遊べないから焦れたんだろう奏太君が部屋の外まで来ているらしい。彼にこの話を聞かせるわけにはいかないから、ここで2人だけの内緒の話はお終い。


隣にいる桂馬を見上げると、目が合った。きっと互いに考えていることは同じだろう。視線を逸らさぬままに、同時に肯いた。


そして、静かに立ち上がった桂馬はドアの方へをゆっくりと歩いて行き、右手をノブへと伸ばした。


――ガチャリ


「お待たせ、もういいぞ」


ニコニコとして、ドアのすぐ目の前に立っていた奏太君を招き入れた。小さな彼の姿に口角が上がる。


奏太君の手にはしっかりとゲームが握られていて、何をして一緒に遊ぼうとしているか一目で分かった。


この無邪気な奏太君を見ていると、事を荒立ててはいけないと改めて感じる。やっぱり今まで通り、そうしなければ彼の笑顔が消えてしまうかもしれない。


私も皆と“同じ”ふりをする。
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