せいあ、大海を知る
8月も半ばに入り、この週末は桂馬の両親と奏太君は3人で泊りがけの旅行に行ってしまっていた。桂馬は生徒会の仕事があるからといかなかった。


家にいても暇な私は、桂馬の仕事が終わるのを学校の図書室で待つことにして、のんびり読書をしていた。


本当は学校に来る必要はないけど、今日みたいな理由で何度も足を運んでいた。教室は課外があっていて使えないから、必然的に図書室が居場所になっていた。


「……あっつ」


誰もいないのをいいことに、ブラウスをパタパタとさせて風を送り込んだ。


風通しはいいけれど、冷房がないとやっぱり暑くて汗が滲んできてしまう。早く桂馬来ないかな……頻繁に時計をちらちらと確認しながら時間が経過するのを待っていた。


あと30分くらいかな。少し時間がありそうだったから、持っていた本を閉じて机に突っ伏した。


早起きしたからかな、少しだけ寝ようかな。すぐに起きるから、ちょっとだけ……。


あっという間に意識が遠のいていく。





身体を揺さぶられて、意識がはっきりとしてきた。閉じていた目を開けて、ゆっくりと顔を開けた。


「……千夏、お待たせ。ごめん、遅くなって」


もちろん目の前にいたのは桂馬だった。


桂馬越しに見える時計を見ると、思っていたよりも時間が経過していて驚いた。さっき午後2時だったというのに、いつの間にか3時を余裕で超えてしまっている。


「大丈夫、1時間以上寝ちゃっていたらしいから」


まだまだ眠い目を擦りながら桂馬に告げた。桂馬の申し訳なさそうな表情からするに、きっと待ち長くてふて寝しちゃったとでも思っているのだろうと感じた。


「拗ねてるのかと思った」


ほら、やっぱりね。予想通りで可笑しくなった。


「拗ねてる方がよかった?」


わざと尋ねてみると、大きく首を振られてしまった。


「そう?じゃあ、安心して。拗ねてないし、ただ眠くて寝ていただけだから」


そう言うと桂馬はホッとした顔をして、笑った。夏休みまで生徒会の仕事をしている相手にへそ曲げるわけがないのに。それに、勝手に付いてきておいて、文句を言うほどの我儘じゃないと自分では思っているんだけどな。
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