せいあ、大海を知る



「……わっ」


訪れることの増えた見慣れた家がもうすぐ見えると、最後の角を曲がった所で、少し前方を歩いていた桂馬はピタリと歩みをやめた。


気づくのが遅れてしまった私は、桂馬の背中に顔をぶつける結果となった。そんなに強くぶつかったわけではないけど、驚いて声をあげてしまった。


「……桂馬?」


どうしたのだろうと、一歩後ろに下がり桂馬から離れると、彼の横に移動し顔を覗き込むように聞いた。


返事を聞く前に何かを凝視している視線を追った。


桂馬の視線は、中西家の中を覗うようにうろうろとしている人へと向けられていた。初めて見る顔に不信感を抱いた。


私たちと歳は変わらないくらいの人だから、桂馬の知り合いかもしれないと思ったけど、桂馬の反応からそれは除外した。


知り合いじゃないなら、また私たち以外の記憶が変わったということもありえる。けれど、それならもっと自然な感じのはずだ。目の前の人物は明らかに行動が怪しい。


「千夏は俺から離れないで」


急に頭上から降ってきた言葉に反応し、顔を上げると難しい顔をした桂馬と目が合う。しばらく見つめ合ったあとに返事をしていなかったことに気が付いて、分かったと大きく首を縦に振った。


ゆっくりと不審者に近づいていく桂馬の半歩後ろを私も付いて歩いた。
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