せいあ、大海を知る
いつもとの違い
「あの、うちに何か?」


「……!!」


余程中を覗き込むのに一生懸命で、周囲の様子には気づいていなかったんだろう。至近距離まで近づいても気づかれることはなく、桂馬から声をかけたことで大きく肩を揺らして驚いている。


何かを言おうとして口を開いては何も言わずまた閉じてと、ぱくぱくと繰り返している。


鯉っぽい……他人事のようにその様子を眺めていた。池で求めて口を開閉する鯉の映像が浮かんだけど、それは慌てて頭の中から消し去った。


「さっきから中を見ておられたので、用でもあるのかなと……」


予想以上に返ってこないまともな反応に、苦笑しながら桂馬が助け舟を出した。


「すみません、怪しい者じゃないんですけど……あっ、でも怪しすぎるよな……えっと、用と言えば用だけど、用がないと言えばないんですよね……」


しどろもどろに、矛盾した言葉ばかりを並べていて、本当に怪しいなと一歩引いてしまった。


「本当すみません……先日、知人によく似た人を見かけたもので。確かめたくて来てしまいました。気分悪いですよね」


何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、少しずつ理由を話始めた。でもこの家にはそう沢山人がいるわけでもないし、桂馬の事でないなら誰だろうかと3人の人物が頭に浮かぶ。


「今は誰もいませんよ。また改めていらっしゃいます」


私は今聞いた言葉にぎょっとしった。一体何を考えているの。誰なのかも分からない人に、今家族が不在なことも教えて、またの訪問を促すような発言、信じられない。危機意識が低いのではないかと心配になる。


「……いやいやいや、そんなわけには」


驚いたのは私だけではなかったようで、目の前の人物も目を丸くした後に、頭が取れそうなほど勢いよく首を横に振っていた。


何とも不思議な光景だろうか、不審な彼の方が焦っている。
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