せいあ、大海を知る
「……」

「……」


気まずい、非常に気まずい。桂馬に促されるまま、私たちは中西家のリビングへと連れだって入った。そして、今はリビングのソファに桂馬以外が座っている。


桂馬は飲物を淹れてくると、私を置いて一人でキッチンに行ってしまった。


取り残された2人は、何か話をするわけでもなく、ただ無言で桂馬の帰りを待っている状況だ。


……来た。


静かすぎる部屋では、小さな足音でさえも聞き逃すことはなくて、キッチンの方からした小さな音にも即座に反応した。目の前の人物も同じだったらしく、私から少し遅れて俯きがちだった視線を上げた。




――コトっ


「お待たせしました」


全員分一度に入れてしまったんだろう、桂馬の手にあるお盆には麦茶の入ったグラスが3つ並んでいた。さすがに、人ごとに飲物を分けたりはしなかったらしい。


桂馬を手伝って、お盆に乗ったグラスを今度は私がテーブルへと移した。


配り終えたところで、桂馬は私の隣へと腰を落ち着かせる。私たちが並んで座り、その正面に彼が座るという構図になった。







いざ話そうとしても、何から話すべきなのか迷い、しばらく無言が続く。グラスを持ち上げて一口だけ口に運び、またテーブルへと戻す。こればかりを不自然に繰り返した。


私だけではなくて、全員が揃いも揃って。一人がグラスを置くと、誰かがグラスを持って……統率のとれたリレーのようになっていた。第三者が見たら実におかしな光景なんだろうな。

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