せいあ、大海を知る
少し茶色みのある、ふわふわの髪の毛をくるくると指で巻きながら勝家さんは今日ここに来た経緯を話してくれた。なぜ、中西家を訪ねる結果になったのかを。


桂馬のお父さん……新しいお父さんは少し前まで勝家さんのお父さんだったらしい。ややこしくて、信じられない話だけど。


ここにお父さんが現れた日、勝家さんの家では違う人物が当たり前に仕事から帰ってきたという。もしかしてそれは桂馬のお父さんじゃと思ったけど、口にはしなかった。実際に見ないとそれは何とも言えないから。


勝家さんもお父さんが変わったことにショックを受けつつも誰に話すことも出来ず、悲しむとか苦しさを押し込めて生活してきたらしい。


やっと受け入れ出した頃、その時は来た。用があければわざわざ来ないくらい少し離れている、この辺りには模試を受験するために訪れたらしい。


模試も終わり電車で帰ろうとしていた時、よく知っている人物とすれ違った。それが桂馬の新しいお父さんで、勝家さんのお父さんだった人。


居なくなったと思い込んでいた人が目の前にいて、我慢できなくて後を追ったらしい。そして、中西家に入る所までを確認して、その日は帰宅という。


それから3日経った今日、やっぱりお父さんを一目見たくて再びここに現れた……ということらしい。
話に矛盾した点も見つけられないから、きっと事実なんだろう。


私は彼が訪れたのが今日でよかったと思った。


だって、もしお父さんに会えたとしてもすでにお父さんの中で勝家さんは他人でしかない。遠くから見るだけだとしても、新しい家族と過ごすところを見せ付けられるだけ。


いい事なんて一つも存在しないと私は思う。だから、本当に桂馬しかいない今日でよかったと思う。


だからこそ同じである私たちは出会えたんだから。
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