せいあ、大海を知る
「そこに座って待ってて」


迎え入れた桂馬をすぐにリビングへと案内した。私の部屋は狭いから、ソファもあるリビングの方がゆっくりできて楽だから、誰も家にいない時間帯は桂馬をここに招き入れることが多い。


私の後ろをゆっくりと着いてきていた桂馬は、特に何も言わずスタスタとソファへと歩みより腰を降ろした。その姿を見届けてから、私はキッチンへと移動した。


今日は私がジュースの気分だったから、桂馬も一緒にオレンジジュース。お茶菓子に昨日焼いておいたマドレーヌをお皿へと盛った。


お盆に乗せた後、溢さないようにゆっくりと歩いて、再びリビングへと向かった。





――カタっ


「はい、どうぞ」


目の前のテーブルへとグラスを置きながら、声をかけた。そして、私も桂馬の隣へと腰を降ろすことにした。


「ありがとう。……これ、手作り?」
お皿に適当に盛られたマドレーヌを桂馬は指差している。そういえば、桂馬に手作りお菓子をあげるのは久しぶりかもしれない。


だって、放課後も学校がない日も、ほとんどを桂馬と過ごしていたから、日々の家事で精一杯でお菓子を作る余裕はなかったから。


「うん、昨日のうちに焼いてたんだよ」


口に合えばいいな、桂馬が喜んでくれたら嬉しい。


彼が食べてくれるのを待つのはなんだか緊張して、先に一つ手に取ってぱくりと口に含んだ。


私に続いて桂馬も1つ手に取って、食べ始めた。もぐもぐと無言で口を動かして、ゆっくりとけれど休むことなく1つをぺろりと食べてしまった。


「……」


どう?その一言が聞けないで、無言のままじっと見つめた。


「……くくっ」


バチッと目が合ったと思ったら、桂馬は急に笑い出してしまった。


「そんな不安げな顔しなくても、ちゃんとうまいから大丈夫だって」


「……よかった」


うまい、その一言でホッとして、妙な緊張感からやっと解放された。
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