お金より体力が大事?
小花のよそ事な返事をきいて、幸鷹はニヤッと笑った。


「なぁ、もしかして・・・嫉妬してる?」


「私が?何に・・・?S&Y社が軌道にうまくのってよかったじゃない。
私もこれで安心して執筆と自分の学業主体にがんばれるというものよ。」


「また、学校で困ったことになってるのか?
何ができなくて悩んでるんだ?」



「悩んでなんかいないわよ。
ただ、うちの学校は女子校じゃないのと、出席のチェックはかなりきびしいから、グループ遠足も出なくちゃいけなくて・・・私は夜にずっと執筆してるから、昼間の運動はきつくて・・・。

グループでの移動にはサイクリングしていくらしいし・・・。」


「それなら、うちのジムが最適じゃないか。
体を鍛えりゃいいだけだろ。

自転車こぎだってたくさんできるところがあるから、インストラクターについて少しがんばれば十分間に合うと思うけどな。」



「あ・・・そっか。」


「インストラクターは俺が請け負うよ。
新鋭小説家の先生がバレバレになっちゃっても困るだろ。」



「ごめんなさい、お手間かけちゃって。」


「俺はこんなことしかまだできないからさ。
だけど、俺でも君の役にたつことができるんだったら、こんなにうれしいことはないよ。」



「そんなの・・・気にしなくていいのに。」



問題の遠足は2週間後。
それまで、できるだけのことをやろうということで、小花にとっては特訓の日々が翌日からなされた。


「ねぇ、すぐ運動するんじゃないの?」


「ああ、まずはカウンセリングからだ。
どういう目的かっていうのもきいておかなきゃいけないし、重点を置いてる場所を鍛えるんだが、やりすぎると痛めてしまうこともあるしな。

持病なんかある人からはとくに症状をきいておかないと、よくするつもりがひどくなってすぐ病院行きになってしまうだろ?」


「はぁ・・・本格的すぎて・・・頭痛くなる・・・」


(なんかたかが大学のグループ遠足ごときに、ジム通いなんていうのもバカみたいだなぁ・・・。)


そう思いながら初日のプログラムをこなして帰っていった小花だった。



その帰り道にふと、駅前の百貨店で新作文具のイベントがあることを思い出して、運転手に百貨店で降ろしてもらうことにした。


「ここからだったら電車でもどるから、先にもどってて。
困ったことがあったらまた電話するから・・・じゃあね。」



目的地にたどりついた小花のいちばん目をひいたのはきれいな色の原稿用紙だった。

いつもはパソコンをたたくことの方が多い小花だったが、色とりどりの用紙に妙に気持ちがひかれる気がした。


「アイデアだけなのよね・・・便利っていうのもあるけど、見た目とか匂い付きとかそういうのも癒しになるんだわ。」


「何か書く予定でもあるの?」
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