お金より体力が大事?
ふりかえると、ジーンズに少しよれっとしたシャツが魅力的な青年が立っていた。


「うん、大学が文学部だから書くことは多いんです。」

とりあえず、小花は無難な答えをしてすぐにその場を立ち去るつもりだったが、青年はニコニコしてついてくる。


「俺は高岡由樹(たかおかよしき)。じつはこの原稿用紙は俺が発案したものなんだ。」


「えっ・・・作者さんなんですか。すみません・・・見た感じそんなこと思いもしなくて。」


「あはははは。正直だね。
まぁ、年の割にこういう格好してれば、かかわりたくないって思うかもね。

俺は大きな声ではいえないけど、文具フェチでね、あったら楽しいなって思うものを考えるのが好きなんだ。

原稿用紙もだけど、いろんなものに色とかいい香りとかあると楽しいよね。

今は洗濯物だっていい香りがするのが当たり前だし。」


「そうですね。この原稿用紙も色もかわいいし、こすったら香りがしたりって面白いです。
でも、そういうのって便箋にはあった気が・・・」


「そうなんだよ。便箋にはそういうのがたくさんある。
でもどうして原稿用紙にはないんだろね。

大学の提出用レポート用紙にもない。
もちろん先生の側からしたら、いろんな匂いがまざって嫌になるっていう理由もあると思うんだ。

だけど、そういう提出用じゃなくて個人で使うものってもっと自由でもいいんじゃないかな。」



「ただ、その香りが好きって思う人がたくさんいないとコストがかかりすぎちゃいますよね。」


「へぇ、けっこう現実的だね。
かわいい好きだけでもないってことかな。」


「い、いえ・・・かわいいのはステキなんですけど・・・。」
(やばっ、ご機嫌悪くしちゃったかな。)


「あははは。ほんとに正直だね。
じつは俺もそう思う。

だから、これはあくまでもここでの趣味の問題で出してるだけ。
ここでの反応を見てから商品化するものが多いんだよ。」



「ああ、そうだったんですか。」


「君、このあと何か予定ある?」


「いえ、家に帰るだけですけど・・・」


「じゃ、何か食べよう。
じつはさぁ、俺・・・朝食べたっきり、何も食べてなくてさぁ・・・。
ここの展示とか、商品の打ち合わせとかで食べるタイミングを逃しちゃってね。

今ちょうど、夕飯の食材を買いに来てるお客さんが多いだろう?
余計に腹がへって・・・頼む!」


「お金ないんですかぁ?」


「いや・・・外に出にくいんだよ。ひとりだと・・・」


「あ、わかりました。じゃ、私とさりげなく出ましょう。」


「うん。ありがとう。」
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