お金より体力が大事?
酔っぱらいが気分だけ本気のパンチだのキックだのくりだしてきた。

すると幸鷹はバック転でホイホイっと後ろへかわす。

そして側転でよっぱらいの横に近づくと、足で手をはさんで簡単によっぱらいたちを横にこけさせていった。


「おっさんたちどこを狙ってるんだ?こけてるじゃないか。
じゃ、俺らはこのへんでな。じゃあな~~」



「おい、うぉ~~い!いてぇ・・・いてぇよ。」



幸鷹と高校生くらいの女は走って公園を出て駅前に出た。


「ここまでくれば、大丈夫なんじゃないか?
それか、もっと家は遠いのか?」


「ううん、もう少しいったところのマンションが我が家なの。
でも、今夜はひとりだから怖い・・・。」



「ひとり?家族は旅行中なのか?」


「ううん、私の両親は私が中学生のときに亡くなって、いないの。」



「ちょっと待て、じゃあ、誰とマンションに住んでるんだ?
このへんのマンションって家賃もけっこうお高いだろ?」


「お金はあるからいいの・・・。ふだんはマネージャーさんとかお手伝いさんがいるから・・・」



「えっ?おまえ・・・何者?
もしかして、さっきの酔っ払いも何か狙われる所以がある人物だったのか?」



「それは違うわ。普通のよっぱらいだと思う。
今夜は出版社のパーティーがあって招待されて出かけてきたの。

帰りも専用のタクシーに乗せてもらったんだけど、途中で具合の悪いおばあさんがいてタクシーを使って病院までいってもらったから・・・。
まさか・・・こんなめにあうと思わなかったから。」



「そっか。言いことをしても自分にいいことがあるわけじゃないもんな。
俺もそのことをひしひしと感じながら、酒を飲んでたけど・・・酔えなくてな。」



「どうかしたの?」


「学生にいってどうなるわけじゃないだろ。金がいるからな。」



そういって、幸鷹はハミングスポーツのことや自分が元オリンピック体操選手予定だったことなどを少女にペラペラとしゃべってしまった。

不思議なことに、今になって酔いがまわってきたような上機嫌だった。



「へぇ。あなたが樋川幸鷹さんなんだ・・・。さっきの宙返りとかすごかったもんね。
本物をあんなそばで見たのは初めてだよ。

私は雨咲小花(あめさきしょうか)。これでも20才なのよ。
学生には違いないけど、お金持ちの大学生よ。」


「いいなぁ。お金持ち・・・俺はもう普通の社員もできないっていうのにな・・・。」


小花のマンションの入り口近くで、幸鷹はとうとう酔いつぶれてしまった。

小花はやむをえず、幸鷹を中に運んで床に転がして上から布団だけかけてやった。


「ごめんね・・・いかつい兄ちゃんは私の力じゃ運べないや。
朝になって誰かやってきたらベッドに寝かせてあげるからね。」


その日は小花のマンションで2人は一夜を過ごすことになってしまった。
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