聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
第一章 記憶の雪

気がつくと、カイは長い長い光の階段をのぼっていた。

光る階段ではない、まさしく光でできた階段なのだ。

うすぼんやりと明るい光でできた透明な板のような階段に一歩を踏み出す度に、足下の一段がまるで鍵盤を押したように少しへこんでぱあっと強い光を放つ。

周囲は闇ではないのにこうもはっきりと光を感じられるのが不思議だった。

頭上やはるか足下では何か雲のようなものが虹色に輝きあちこちで渦を巻き空間を埋め尽くしている。

その虹色にのみこまれるほどはるか下まで、見上げれば首が痛くなるほどはるか上まで、カイの上る光の階段はらせん状に続いている。

いや、階段はカイが上るもの意外にも無数にどこからか伸びてきて交差していたから、どれがカイの上る階段なのか定かではなかった。

ところどころで、カイが一歩踏み出すたびに放たれるあの強い光が放たれているのを見ると、それぞれの階段をカイと同じように歩いている人がいるのだろう。

虹色の渦と淡い光、銀河のような無数の強い光に包まれた空間。ここはいったいなんなのだろう、とカイは思った。

ここはどこだろう、とは思わない。わかっている。ここは黄泉の国だ。自分は死後の世界に足を踏み入れているのだ。

どこか体が軽く、ふわふわと浮かんでいきそうな奇妙な感覚をおぼえながら、カイは階段を上り続ける。

不思議な光に満ちたこの空間では気を抜いていると意識が散漫になっていくので、カイは念じるようにリュティアのことを思った。何度も何度も、ここに来た目的を反芻した。

―リュティアはついさっき、彼女が星麗の騎士と呼ぶ少年の手によって殺された。

通常であれば黄泉の国を通って天上界へと旅立ってしまうはずの彼女の魂を、パールが聖具虹の錫杖の力を使って今、かろうじて黄泉の国にとどめているという。

彼女の魂を救いだして生き返らせるために、今、カイはここ黄泉の国にいるのだ。
< 1 / 141 >

この作品をシェア

pagetop