聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「ま…待ってカイ」

リュティアの制止の声も、カイを押し止めることはできない。カイは手を伸ばし、リュティアの頬をつかまえる。

その頬は朱に染まっていた。そんなぞくぞくする表情を見せるリュティアがいけないのだ。

「私で、いいんですか…?」

「…お前じゃなきゃいやだ」

―たとえこれが過ちでも…。

「…カイ………」

リュティアが上向いて、観念したようにそっと瞳を閉じた。

カイの体を、熱い衝動が突き動かす。

夢にまで見た瞬間がやってきたのだ。

カイは唇をリュティアの唇に近付けていく。リュティアの睫毛が緊張に震える様まではっきりと見て取れる。リュティアは許している。何も自分を押し止めるものなどないはずだ。

しかし…。

―『妹だ』。

―『お前の実の妹だ』。

ラミアードの声がカイの脳裏に蘇る。

あと少しで唇に触れる…。

―妹…。

―……………………できない…!!

「………カイ」

至近距離で、リュティアが瞼を上げた。

その瞳には傷ついたような光が宿っていた。

「やっぱり…私じゃだめですよね…私なんて、やめた方がいい…」

そう言ってうつむくリュティアに、カイは愕然とした。

「ちがう、ちがうんだ、リュー」

「…もう、時間です。仕事に戻りましょう」

リュティアは背を向けすでに執務室へと歩きだしている。

カイは泣きだしたいような、何か物にあたりたいようなどうしようもない気分になった。

リュティアは知らないのだ。自分がどんなに口づけを交わす日を夢見てきたか。どんなにこの想いが深いか。知らないから、そんな勘違いができるのだ。

カイは運命を呪ったが、リュティアはもう振り返らなかった。
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