聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
雪がこんなにも冷たく感じるのはなぜだろう。

自分の心はこんなにも冷たいのに…。

「―3000年前〈光の人〉はプリラヴィツェで闇神に殺された。だからプリラヴィツェから感じた〈光の人〉の気配は、ただ単に昔の〈光の人〉の墓の気配だったと?」

「…そうだ。だから生まれ変わった現在の〈光の人〉が今どこにいるのか、俺にはさっぱりわからない…だが〈聖乙女〉亡き今こんな話は無意味だろう、わかったら出ていけ」

ヴァイオレットに背を向けたまま答えるライトの口調は、どこまでも投げやりだ。

―冷たいと感じられるほど、あたたかい血など自分には通っていないのに…。

ライトの瞳はひたすらに上を見上げている。

ここグランディオム王の庭には、今日も白い雪が降っている。それをただ、ひたすらに見上げている。

あれから―聖乙女を殺めてから、何か月もの時が流れた。それなのにライトはいまだに政務にもつかず剣も持たず他国を攻めることもなかったが、魔月将たちを部屋に入れるようになっただけまだましだった。

「猛き竜(グラン・ヴァイツ)よ、とんでもなく不愉快な情報が入った。忌々しいことだが、悪い予感が的中してしまったのだ」

ヴァイオレットの後ろから、牛の頭の悪魔グランデルタが現れて言った。

ライトは視線を動かさない。

舞いおりてくる雪の白さを、目に焼き付けるように見つめ続ける。

彼をとらえる心の暗闇を、その白さが照らしてくれることを望むように。

悪い予感。そんなものに興味はなかった。もうすべてに興味などなかった。すべて、どうにでもなればいいのだ。
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