聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「世界が急に聖なる守りの力に包まれたのはやはり、世界の核に新しい王国が誕生したせいとのこと。その国の王は女王、聖乙女リュティアだというのだ」

ライトは雪に向かって伸ばしかけていた手を止めた。

瞳は瞬きを忘れ、口は呼吸を忘れた。

ライトのすべてが時を止めたようだった。

「今………何と言った…?」

ライトは初めて雪から視線を動かし、グランデルタを振り返った。

「だから、聖乙女が生きていて、王位に就いたのだ。あやつめ、どうやって生き延びたのか…」

「聖乙女が………生きている………?」

聖乙女が生きている…聖乙女が生きている―!!

その言葉の意味がやっとライトの胸に落ち着いた瞬間。

ライトの胸を衝撃が走り抜けた。

それは激しい衝撃だったが、不快ではなかった。むしろ心の暗闇を突然に照らしだす強烈な光のように明るくあたたかく、快いものだった。

ライトは矢も盾もたまらず駆け出していた。

剣も持たず、鎧も着ずに、駆け出していた。

「お待ちください王よ!!」

ヴァイオレットが慌ててライトの後を追って来る。

「フローテュリアは現在結界の中、そこでは我々の力は無効化されてしまいます。貴方様の雷、炎、大地、風の力も使えません。ここは焦らず、機を見て確実に仕留めるべきかと―」

ヴァイオレットの必死のセリフも、脇目も振らずに駆けるライトの耳には届いていなかった。

―聖乙女(リル・ファーレ)はフローテュリアにいる…!! 生きている…!!

「闇の道よ、フローテュリアへ…!」

ライトは叫ぶと、力を使って闇の渦を出現させ、その中に飛び込んだ。
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