聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~

その夜リュティアが一人で主宮殿の庭に出たのは、眠れなかったからだ。

どうしても考えてしまうことが山ほどあって、眠れなかった。そんな混乱している自分の気持ちや状況を、少し一人で夜風にでもあたってみつめなおしたかった。

夜の庭はたとえようもないほど美しい世界だった。濃紺の夜空には宝石のような星々が散りばめられ、咲き誇るルクリアの花が、月光に照らされ今は銀色に見える。花を支える大ぶりの葉は本来の緑を手放し、黒々と輝いている。

このルクリアの花と葉を見ると、リュティアは「ルクリア物語」を思い出す。

花を女性、青々とした葉を男性に見立てた美しい恋物語だ。

ラストシーンで二人手を取り合い踊るその姿がそのまま花びらと葉となり、それぞれの浮かべる笑顔が優しくほころぶめしべと力強い葉脈になったという。

―ライトのちゃんと笑った顔を見たことがない。

ふと、リュティアはそんなことを思った。

ライトは、いつも淡々としていて、ぶっきらぼうだ。でも強い。すごく強くて…冷たいことを言うくせに、その手は優しい。

リュティアはそっとルクリアの花に手を伸ばす。

寄り添い合うこの花と葉のようにあれたらと、いつのまに自分は叶わぬ願いを抱いてしまっていたのだろう…。

この宵、ライトの面影ばかりが蘇ってくるのを、リュティアは止めることができなかった。今日カイと口づけをかわせていれば、きっとそうではなかっただろう。

ライトはあの時自分の想いを否定した。

そんなことあるはずがないと言った。

リュティアは考える。

そんなこと、あるはずがないのだろうか。

ライトを好きになるはずがないのだろうか。

確かに、重ねた時間はあまりにも短い。けれど、名前を教えてくれた…殺さないでいてくれた…―あんなのはただの気まぐれだ―でも嬉しかった。

優しさや温かさを、自分は確かに彼の中に見出したのだ。気がついたらそのほんの少しの優しさに、どうしようもないほど惹かれていた―…。
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