聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
一瞬だけ押し当てられた唇の感触が、忘れられない熱さを胸に刻んだのだ。

呆然とするカイの目の前でうっすらと微笑んで見せたリュティアに、そこにあるすべてのルクリアの花がぱあっと祝福を与えたように見えた。

ルクリアは冬涼しくなる季節に春のようなあたたかな桜色の花を咲かせることから、“初恋”の花とも言われていた。カイはこの花の示すとおり、この時初めての恋に落ちたのだ。

―いつかあの感触を、唇で味わえたら…。

あの時から、それがカイの夢になった。

この時のリュティアの気持ちが流れ込んでくると、カイは心が熱くなった。リュティアの心は純粋な心配とカイを慕う気持ちで溢れていた。

光る雪が綴る思い出は、そこで途切れた。

「リュー…。どこだ、どこにいるんだ」

リュティアを想う気持ちが増すたびに、リュティアの気配が近づいてくる。

彼女の気配はもうとても近い。まるですぐそこにいるように感じられるのに、雪原を見渡してもどこにも彼女を見つけることができない。

カイは焦り始めていた。

絶対に二人で帰りたい。二人で生きたい。しかしリュティアを見つけられないまま、容赦なく、砂時計は流れていく…。
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