聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「わかっています…わかっています…わかっているのです!」

「わかっていない!!」

声を荒げるカイに、リュティアは泣きたくなる。

だがカイは―

カイはリュティアよりもっと泣きたかった。

王城に侵入者の報を受け、カイをはじめ護衛官たちは総出で城の内部を駆けまわっていた。何よりリュティアの身を心配したカイが私室を訪ねれば、リュティアがいない。慌てて庭を探したら、リュティアは侵入者ライトの腕の中だった。

「わかっていない!! なんであんな、あんな…」

リュティアは気づいていないのだ。ライトの口づけを受けて、自分がどんなになまめかしい表情をしていたか。

それをカイがどれだけ望んできたか。カイは自分が情けなかった。初恋のルクリアの花の前で、他の男と口づけさせてしまうなんて…!

カイが味わった敗北感は生半可なものではない。だから逆にカイはふっきれた。

「絶対に、あいつにお前は渡さない。私がお前を幸せにする。私はお前を、花嫁にするつもりだ」

荒い語調のままにカイはそう告げた。それを聞いたリュティアの顔に動揺が走る。

「ま、待って…カイ、はなよめ…? 私は……ライト様が私を好きだと…好きだと…私は…」

「もういい。いいんだ。振り向かせて見せる。必ず私が、忘れさせて見せる。もう」

―妹でもいい。構わない!

他の男と結ばれるリュティアなど見ていられない、許せないのがはっきりとわかった。自分の気持ちがそれほどに大きいことがわかったのだ。

「私がお前を、花嫁にする」

それは決意の宣言だった。

リュティアはただ、言葉をなくした。
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