聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
次の瞬間、リュティアは何か冷たいものを頭にぴしゃりと浴びせられていた。

驚いて目を上げると、空の杯を構えたフリードと目が合う。

リュティアははっと息をのんだ。

その目が、紛れもなく怒りの色に染まっていたからだ。

「目を覚ませ!! 見損なったぞリュティア!! 今は恋だの愛だのと騒いでいる場合か!! 王国の現状がお前には見えないのか。民が二分され、互いに争い、内乱とまで呼べる状況に陥っているんだぞ! 民の苦しみがお前には見えないのか!」

フリードは舌鋒(ぜっぽう)鋭く言い募った。

「恋だの愛だのと浮かれていたいなら、王位などさっさと譲ってしまえ! 王位はそんなに、甘いものではない!」

この鋭いセリフは今のリュティアにもさすがに効いた。

―そうだ。自分は女王なのだ。それなのに何をしているのだろう。

リュティアの頬が羞恥に染まった。

無論、リュティアはまだほんの16歳の少女だ。恋にも愛にも揺れてしかるべき年頃だ。だが彼女が女王である以上、それらのことを超越した存在であることが求められるのもまた事実であった。

リュティアは水の滴る睫毛を震わせ、やっとのことでこう言った。

「目が………覚めました………申し訳ありませんでした………」
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