聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
カイが、王の試練のためたったひとり聖山レヌスへ向かうラミアードの護衛を申し出た時、ラミアードは驚き思わず尋ねた。

『王位を狙っているのか?』

しかしカイは間髪入れずに答えた。

『断固として言わせていただきます。それはありえません。私は王位など一度たりとも望んだことはございません』

『私はまたお前を殺そうとするかもしれない』

『殿下はすでに私は殺せないと仰いました。あなたさまは、そのご自分の言葉に嘘をつくような真似をなさる方ではありません』

『お前に守られなくとも私は一人で大丈夫だ』

『それはどうでしょうか。殿下には昔からどこか頼りない所がおありです』

頼りないと言われてはラミアードは面白くない。だから少し険をはらんだ口調で畳みかけた。

『私はリュティアから王位を奪うかも知れない男だぞ、それでもか?』

『構いません。むしろ王位などリューから奪ってしまっていただきたいくらいです。なんにせよ私はリューを花嫁にします。妹でも、女王でも』

その台詞に、ラミアードは思わず笑った。晴れやかに笑った。

―そうだ、大切なリュティアの夫には、これほどの情熱でリュティアを幸せにしてくれる男が理想なのだと思った。

『そうか。昔からお前は頑固な男だ。一度決めたことはやり通すだろう。護衛の話も私が頷くまで食い下がるに違いない。好きにするがいい』

今回聖山レヌスにラミアード一人が向かうのは、現在女王位にあるリュティアを立てた神殿の判断だ。ラミアードが王と認められるかどうかがわかりさえすれば、おのずとリュティアに軍配が上がることになる。

ライバルであるはずのリュティアに見送られ、ラミアードとカイの二人は馬にまたがり聖山レヌスへ向けて出発した。
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