聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「しかし、殿下をおひとりで行かせるわけにはまいりません。危険です」

「王の試練を受ける者しか、入山はできない」

「ですから――」

その時、ラミアードの凛とした声が割って入った。

「守り人よ、この者も王の試練を受ける者だ、通してやれ」

大男はうろたえたようにラミアードを振り返った。

「この者が王の試練を受けると?」

「そうだ。彼にはその資格があるのだ。通してやれ」

大男はラミアードとカイを交互に見てしばし逡巡していたが、やがて「…わかりました」とカイのために道を開けた。

護衛ができるのだから結果的にはよかったのだが、この展開にカイはとまどった。カイは小走りでラミアードに追いつくと、その気持ちをラミアードにぶつけた。

「殿下、私は王の試練を受けるつもりは―」

「カイ」

カイの言葉を遮って、ラミアードはそのまなざしをカイに注いだ。

それは強いまなざしだった。覚悟を決めた者だけが見せるまなざしだった。

「私は知りたいんだ。真実(ほんとう)に王にふさわしい者は誰なのかを。真実(ほんとう)に王にふさわしいと、認められたいんだ」

「殿下……」

ラミアードは本当にそう思っていた。

―この国の本当の王子であるカイと王位を争うことになってもいい。王家の血は流れていなくとも、真実の王たりうると認められたい。どんな努力も惜しまない。自分が選ばれたなら、きっと平らかに国を治めてみせる。

ひたむきに、まっすぐに、そう思っていた。

カイを手にかけようと思い詰めていた時から大幅な心境の変化があったのだ。真実を打ち明けたあの時、王位が脅かされる恐怖より何よりほっとしたというのが大きな要因だった。

ラミアードはその時はじめて、自分がカイに重大な秘密を持つことそのものに恐怖していたことを知った。

王位に関しては、自分がふさわしい者であるという自負がきちんと育ちきっていたから、不安も脅威も少なかったのだ。

今のラミアードには真実をみつめる勇気が生まれていた。本当に王にふさわしい者が誰なのか、神が定める真実を。
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