聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
鳳凰の間に火急の知らせが届いたのは、朝議が終わった直後だった。

「大変です女王陛下! 魔月が…!」

駆けこんできた兵士はやっとのことでここにたどり着いたという様子で、その髪は乱れ呼吸は荒い。リュティアはとにかくこの兵士を落ち着かせようと立ち上がり、穏やかな声を出した。

「大丈夫です。王都は結界の中、魔月が現れたとしても、私たちに危害を加える力はありません」

「違うのです、陛下。魔月は、ぎりぎり結界の外、郊外の農場に現れたのです」

「…結界の外に? おかしいですね…。各国の王都以外のすべての地域には結界には及ばずとも“聖なる守りの気配”が生きているはずです。魔月はその気配を極端に嫌うはずなのになぜ……」

「わかりません。しかし結界の外は禍々しい気に満ちていました。深い闇のような気配に…」

それを聞いてリュティアの瞳は凍り付いた。

「魔月に今も農場の人々が殺されています。どうかお助け下さい!」

「………!」

リュティアは目を見開き、唇を震わせる。
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