聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
男の体が服も髪もすべてみるみるうちに灰色に変色していく。色だけではない、見るからに質感までもが変化している。あれはそう――石のような…。石――?

ラミアードの全身に悪寒が走った。

ではやはり、今までに見た石像は…。

「やめろ!! ヴァイオレット!!」

カイが弓を構えながら巨鳥にそう呼びかけたので、ラミアードは驚き思わずカイの方を振り向いた。

―カイはこの巨鳥を知っている?

再び巨鳥を振り仰いで初めて、ラミアードは巨鳥の頭に生えた二本の赤い角に気がついた。

―魔月、魔月が人々を襲っているのか!?

ヴァイオレットと呼ばれた魔月はカイの矢をかわして悠々と空に舞い上がると、くちばしを突き出して一直線に降下した。その鋭いくちばしが目指す先を目で追って、ラミアードは青くなる。くちばしはたった今アクスがなんとかして結界の中に運び込もうとしている石像の、頭を狙っているのだ。

そのことに気付いたアクスが斧を振り上げる前に、ヴァイオレットのくちばしは石像の頭を粉々に砕いていた。

「いやぁぁぁ――! やめて!!」

この声はリュティアだ。

目を凝らせば、ぎりぎり結界の内側に彼女の儚げな姿があった。彼女は今にも結界の外に飛び出そうとし、引きとめる兵たちの腕の中で暴れている。

「さあ、これ以上私に大切な国民を殺されたくなければ大人しく結界を解きなさい、聖乙女よ。それともこちらに来ますか。どちらでもいいのですよ。もっとも、力を使えばまた民を殺しますがね」

ヴァイオレットの口から発せられた中性的な猫撫で声にラミアードは再び驚かされた。人語を喋る魔月など、見たことも聞いたこともなかったのだ。

「だめだリュー!! 騙されるな! 結界を解いても結界の外に出ても大変なことになる!! 世界のためにそれだけはするな!」

「カイ…!! でも……っ! 農場の人たちが…!!」
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