聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
ラミアードははっとした。

―リュティアが泣いている。

リュティアの透明な涙が粒となって空気に散る。

―人々が泣いている。

粉々になった石像の頭をなんとかかきあつめようとアクスが泣きながらしゃがみこんでいる。

人々が恐怖にその顔を歪ませ、石となった仲間にすがりつき、泣き叫んでいる。

―皆が苦しんでいる。

守るべき、大切な者たちが。

その時ラミアードの中にふつふつとわき起こってくるものがあった。それはラミアードの体を熱く燃やす何かだ。

気がつくとその何かが導くままに、ラミアードは腰に差した自分の剣を引き抜き、ヴァイオレットと人々の間に立ちはだかっていた。

無我夢中だった。

ラミアードはヴァイオレットを睨みつけ、気がつくとこう叫んでいたのだ。

「私がこの国の、真実の王、ラミアードだ!! 聖乙女を脅す人質とするなら、私を選ぶがよかろう!!」

「…お兄様!?」

ヴァイオレットの瞳が満足そうに細められた。

「ほう―それはいいことを聞きました。ラミアードとやら、あなたを人質とするのが一番よさそうだ」

「逃げて! お兄様!」

ラミアードはヴァイオレットをひきつけてできるだけ遠くに逃げるつもりだった。その間にアクスが人々を結界の中へ避難させてくれるだろうからだ。しかし、現実はそう甘くはなかった。

駆け出して十数歩で、空をすばらしい速度で滑るヴァイオレットに追いつかれてしまったのだ。
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