聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「うぉぉぉ――――!!」

ラミアードは叫びながら、腰に下げた剣、宝剣アヌスを右手でしっかりとつかんだ。

ばちばちと稲妻のようなものが弾け、激痛が走っても、手を離したりしなかった。そのまま無理やりに剣を鞘から引き抜き、彼は駆けた。ヴァイオレットめがけて突進した。

石化光線が左肩と髪の先を石にする。それでも走った。

「カイ、あとは頼んだ―――――!!」

「ラミアードっ!!?」

ああ、懐かしい、とラミアードは思った。

その懐かしい響きに、鮮やかに蘇る声がある。

『ラミアードの夢は?』

カイの声だ。洞窟探検の時だ。あの日、二人で願いが叶うと言われている石をみつけた…。

あれは母の形見などではなかった。

記憶違いをしているのは自分の方だった。母がいまわの際に、その石を大切にしろと言い残してくれたのだった。

洞窟の奥、たいまつの灯りをみつめながら自分はこう答えた。

『私は――…そうだな。心許せる友が欲しい』

『何それ、ヘンな夢』

『ヘン? どうして?』

『だってもう、私たちは心許せる友達だろう? 願う必要なんてあるのか』

ラミアードは思い出す。やっと思い出した。大切な記憶を。カイに催眠術をかけたあの日、自分の中からしめだしてしまった記憶を。

―カイ―――

暗い洞窟の中で、二人は石に手を載せ笑み交わした。

『じゃあ、石に願おう。二人がずっと、心許せる友であるように―』

何よりもかけがえのないもの。

王位よりずっとずっと、かけがえのない夢。

どうして自分はそれを忘れて…。流れている血に翻弄されて、大切なものを見失った。

ラミアードはアヌスを大きく振りかぶり、ヴァイオレットの体に振り下ろした。

その攻撃に気を取られ、ヴァイオレットに一瞬の隙ができる。

―今だ、カイ―――!!

信じている。カイを信じている。

だって、心許せる友達ではないか。

矢が唸る。ラミアードのすぐ横をすり抜け、そして――

そしてヴァイオレットのぼろの羽根に、見事に突き立った。

「ぐああああああ―――――っっ!!」

耳を覆いたくなるような醜い悲鳴が、ヴァイオレットの口から迸(ほとばし)り出た。

ヴァイオレットは地面に墜落し、苦しみもがいた。その美しかった紫色の体がどす黒く変色していく。

「ぐ…そんな…ばかな…」

いまや黒い炭の塊のようになったヴァイオレットの体が、かくんと力をなくした。

それきり、ヴァイオレットが動くことはなかった。
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