聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
ラミアードは放心状態でその場に立ち尽くしていた。彼をそうさせたのはヴァイオレットとの緊迫の戦闘ではない。蘇った大切な記憶だ。

周囲の喜びのざわめきで、石化した人がもとに戻り始めたらしいことがわかったが、動けなかった。視界の隅でリュティアが結界からとびだしてきて、頭を粉々にされた人に癒しの力を注いでいるのが見える。

「う…うう…」

「父ちゃん!」

「よかった…助かって…」

どうやら完全に石化が解ける前に癒しの力を注げたおかげで、一命をとりとめたようだ。ラミアードの左手や左肩の痛みもしだいに溶けるように消えてなくなった。

「殿下、ご無事ですか!?」

駆け寄ってくる足音に振り返って、ラミアードは胸が熱くなった。

あの頃の少年が逞しく成長した姿に、涙すら浮かんでくる。

「カイ……」

ラミアードは近づいてきたカイを、不意にがばりと抱き締めた。

突然のことに、カイはきっと今目を白黒させているだろうと思うと、ラミアードは笑えた。笑えたから、すぐに離してやった。

案の定、カイはまだ目を白黒させていた。

そこへ、治療を終えたリュティアが駆けてきた。

「お兄様!」
< 138 / 141 >

この作品をシェア

pagetop