聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「私はここを離れたくない。目覚めたくないのです。…どうか、放っておいて」

リュティアの頬を透明な涙が伝っていた。それは頬を伝ううちにしだいに白い雪となり、ふわりふわりと舞い落ちていく。

それは息をのむほど美しい光景であったが、こんなに悲しいものをカイは見たことがなかった。

なぜ、とカイの頭を疑問が鳴り響く。まるでそれに答えるように、リュティアがうつむきながら唇を開く。

「あの方は私を望んでいない…いいえ、それどころか、あの方は私の死を望むのです…だから私はもう、死ぬのがいいのです…このまま、死んでしまいたいのです…」

リュティアを救う、そのためだけにこんなところまでやってきたカイにとってこれほど衝撃的なセリフがあっただろうか。

カイはかっと頭に血が上り、気がつくとリュティアの肩を強く揺さぶっていた。

「なんてことを言うんだ! 私はどうなる! お前が生きていなければ、私の心は死んでしまうのに! 私は」

カイは泣きそうになりながら言葉を重ねた。

「私はお前に生きていてほしい。共に生きたいんだ。頼む、生きろリュー、生きろ…!」

カイの心からの懇願が、リュティアの心に届いたのだろうか。リュティアは涙に濡れる瞳をあげ、至近距離でまっすぐにカイをみつめた。

たくさんの思い出を見てきた直後だからだろうか、その瞳にカイは二人の間に流れた時間を思った。

自分たちは変わった。

あんなに子供だったのに、いつのまにか共に大きくなり、リュティアはたおやかで美しく、自分は逞しく成長した。けれどこの二つの瞳は変わらない。はじめて見た日と同じ、薄紫の宝石…。

そう、生きていてほしい、とカイは切実に思った。

この宝石を守りたいのだと思った。
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