聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「あなたは、誰…? こんな私と、共に生きたいと願ってくださるのですか…?」

リュティアの瞳が揺れている。彼女の心は揺れている。カイはしっかりと頷いてやった。

「ああそうだ」

「なぜ…?」

「それは………」

カイはうろたえ言葉に詰まった。

―なぜ? そんなこと、わかりきっている。愛しているからだ!

リュティアの心は揺れているのだ。

今こそ積年の想いを伝える時ではないか。

伝えて抱きしめる時ではないか。

しかしさきほどファラーガにはっきりと口にできた想いを、今彼女を前に再び口にすることが、カイにはどうしてもできなかった。

自分は愚かだ。情けない。ふがいない。わかっている。今のリュティアに必要なのは愛だ。情熱で心を奪ってしまえばいいのだ。誰よりも強く抱きしめてしまえばいいのだ。なぜ、それができない!?

―だって、リューは女王になる人だ。

―だって、リューはあいつのことが好きだ。

―だって…そればかりではないか! ちくしょう!

「なんででもだ。なんででも、私はお前を連れ帰る!」

想いを告げる代わりにカイが選んだのは、愛するリュティアの鳩尾に一撃を見舞うことだった。

魂だけの存在であるリュティアにもその一撃は効果があった。いや、ファラーガの言ったとおり、魂とは生身の体より脆いものなのだろう、リュティアは生身の人間が意識を手放すよりも早いタイミングであっさりと意識を失いカイに倒れかかってきた。

カイはリュティアを横抱きにし、土くれを蹴って走った。

砂時計が半分落ちてしまった。扉までまだかなりの距離がある。間に合うか!?
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