聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
ヴァイオレットの瞳から一直線に光線が放たれたかと思うと、なんとそれに触れた大地の草がすべて白く固く、まさしく石のように変化したのだ。

―これはまずい!!

カイは心臓が圧迫されるほどに身の危険を感じた。

こちらは魂がむき出しの状態なのだ。ファラーガは魂の方が肉体よりも脆いと言った。魂が石にされたら、いったいどうなってしまうというのだろう!?

リュティアを抱いたまま、カイは一目散に駆けだした。出口目指して。

―まずは何が何でも生身の体に戻らなければ…!

そうすればたとえ石にされてもリュティアの癒しの力でもとどおりになる可能性が高かった。だがカイのその考えをあざ笑うかのように、ヴァイオレットは悠々と空を飛びカイの進路をふさいだ。

だめだ、不利だ、相手は翼ある獣なのだとカイは痛切に感じる。

「私がむざむざ逃がすとでも思っているのですか?」

この時点でカイは逃げることを諦めなければならなかった。

逃げられないとすれば、戦うしかない。―しかしどうやって戦う!? 武器もない、こちらには守るべきリュティアもいる!

「さあ、少しは楽しませてくださいよ」

カイは名案も浮かばぬままにヴァイオレットに背を向けてがむしゃらに走り出す。

その背を追い、ヴァイオレットが余裕たっぷりに翼を広げる。

石化光線が次々と放たれ、カイの腕や背中、足元のぎりぎりのところを石に変えていく。わざとだ。

ヴァイオレットは完全に獲物をいたぶって楽しんでいるのだ。
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