聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「どうしても伝えたいことがあり、天上界へ行けずにいました。時間がないのは知っています。どうぞこのまま聞いてください」

セラフィムも駆け足だ。

「聖乙女に伝えてほしいのです。私は、〈光の人〉ではないと」

「えっ!?」

「私もずっと〈光の人〉について探ってきましたが、ここにきてわかりました。

〈光の人〉とは、三千年前に殺された星麗、光神にひときわ愛された星麗です。

戦いの最後、彼が闇神に殺されたために光神は涙を流し、闇神を攻撃し、その涙と血が虹の宝玉と邪闇石になったのです。

〈光の人〉はおそらく、ただの人間としてこの時代に生まれ変わっているはずです。彼を探してください、なんとしても探してください」

カイは一も二もなく頷いた。

「わかりました。必ず探します」

それを聞いて安心したようにセラフィムが足をゆるめた。その顔に悲しげな微笑が浮かんだ。

「これで私も天上界に行けます…フューリィを、あの子をどうか、よろしくお願いします…さようなら」

「…………………」

カイは駆けながら、何かが腑に落ちなかった。

セラフィムの言動だ。天上界に行けます? フューリィをよろしくお願いします? さようなら?

なぜ、諦めているのだろう。なぜ、そんなに簡単に生きることを諦めているのだろう。なぜ、すべてを悟ったような顔で笑うのだ?

カイは足を緩め、立ち止まった。

「………………ろ」

「……?」

カイが何を呟いたのか、セラフィムには聞こえなかったのだろう。首をかしげるセラフィムの腕を、左手だけでリュティアを抱えなおしたカイの右手が強引に引っ張った。

「生きろ! なぜわからない! フューリィにはあなたが必要だ! 生きろっ!!」

カイは叫ぶと、セラフィムの体を引っ張るようにして駆け出した。

その叫びが草原をみるみるうちに赤や黄や緑に色づかせる。

花だ。

花が咲いたのだ。

目のさめるように美しい一面の花畑に変わった大地を蹴って、カイはセラフィムを連れて走った。

―生きろ。生きるんだ。

―大切な人と共に、生きろ!
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