聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
その頃騎馬の国ウルザザードは危機に陥っていた。

隣国トゥルファンが滅ぼされ魔月の王国が建国されて以来、しばしば魔月が国境を侵して入りこみ、国民をたわむれに餌にしていくのだ。

魔月は一匹でも尋常でない強さを秘めているため、群れで攻められれば国の滅亡さえも考えられた。

彼らが本気になる前に先手を打つべくウルザザードは精鋭を集めて国境近くに布陣したが、それが魔月たちを挑発してしまったのか、恐れていた魔月の群れが容赦なく兵たちに襲いかかって来た。

戦況は絶望的だった。魔月たちに普通の武器はまったく歯が立たなかったのだ。

ウルザザードはプリラヴィツェに援助を求めたが、プリラヴィツェはこれに応じなかった。ウルザザードが領地のいくつかを差し出すことを約定すると、やっとプリラヴィツェも重い腰を上げた。だがこのプリラヴィツェが差し出した軍をもってしても、魔月の群れには歯が立たなかった。

なすすべもなく滅亡することを誰もが予感したその時だった。

厚い雲を割って、一条の光が差し込んだ。

それは長い間夜のうちにあった人々にとって眩しすぎる光だった。

―「太陽の光だ」。

誰かが言った。

だが、誰も信じなかった。

あまりにも光を求め続けてきたから、目の錯覚の類だろうと思ったのだ。

しかし光はしだいに大きくなり、雲が晴れ、あたりはみるみるうちに明るく照らし出されていった。

久しぶりに訪れる“昼”に、人々は我を忘れた。

それだけではない。対峙していた魔月たちが急に苦しみだした。

今にも人の頭を噛み砕こうとしていた牙が突然力をなくし、へにゃりと折れ曲がった。

突如として世界を、何か大きな聖なる守りの力が包み込んだことを誰もが感じた。

のちに、人々は知ることになる。

この時、世界の中心にて新たなる王国が誕生したことを。

16歳の美しき女王がその頭に冠を戴いたことを。

彼女は希望。人々の、世界の、希望そのものだった。
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