聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
昼間は失望され、夜は崇められ。

失望されれば認められたくてがんばってしまうのだ。でも認められない!

崇められれば自分が自分でなくなるようで恐ろしいのだ。でも逃げ出せない!

自分はいったいなんなのだろう。

本当の自分はいったいどこにいるのだろう。どこにいってしまったのだろう。

―疲れた…!!!

リュティアは青ざめた顔で私室を出、壁に飾られていた短刀を手に鏡台の前に戻ってきた。部屋の前に詰めているアクスには、護身用にと説明した。

鏡の中の疲れた美貌を、桜色の長い髪が彩っている。

桜色。だから聖乙女。聖乙女。聖乙女…!

―もう、うんざりだ…!

リュティアはおもむろに左手で長い髪をつかむと、右手の短刀でそれを根元からばっさりと切り落そうとした。

「やめろ!!」

突然、力強い腕に右手を掴まれた。

ぱらりとわずかに断ち切られた髪が数本宙を舞い、短刀が乾いた音を立てて床に転がる。

力強い腕の持ち主は、カイだった。

短刀を手にする青ざめたリュティアを私室の外を警備中偶然目にし、ただならぬものを感じて追ってきたのだ。

―カイ。

懐かしいとリュティアは思った。こんなに近くでこの幼馴染を見るのはいつ以来だろうと、そんな場違いなことを思って少し気が遠くなった。

カイは眉間に皺を刻み、痛ましげにリュティアをみつめている。
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