聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「一体なぜ、こんなに美しい髪を―――」

しかし彼の口から美しいという言葉が発音されたことで、リュティアは我に返った。激しい感情がこみあげ、リュティアはカイの手を振り払い、振り返って声を荒げた。

「美しくなんかない、私は美しくなんかないのです! …本当は女王でなんてありたくない、聖乙女でなんてありたくない、もう何もかもがいやなのです!」

迸る気持ちを叫びながら、リュティアは自分が情けなくなってきた。

今まで押さえてきた本当の気持ち。それは自分の弱さを露呈していた。

「美しくなんかない、こんなに、こんなに醜い気持ちを抱えているのです…!」

「それでいい。それでいいじゃないか。それでも私はリューを美しいと思う。女王じゃない、聖乙女じゃない、リューはリューだ、同じ人間だ」

「…私は人間じゃない…!」

ずっとこらえてきた気持ちと共に、リュティアの頬をぽろりと涙がこぼれ落ちた。

その瞬間、リュティアは抱きしめられていた。

あたたかなカイの体温に包みこまれていた。

自分のものではない鼓動の音と共に、すぐ近くで低い声が響く。

「リューは人間だ。悲しみも喜びも持つ、人間だ。あたりまえだろう?」

その声には力があった。その言葉には魔法がかかっていた。

ここ一か月あまり、聖乙女は星麗だと告げたいつかのパールの言葉がこたえていた。

皆と同じ人間ではないのだと、その事実がこたえていた。大きすぎる力が不安で、孤独だった。

―けれどカイは人間だと言ってくれる?

―変わらずリューと呼んでくれる?

「カイ…………」

その時リュティアの瞳が感激に揺れ、その唇が微笑んだことを、カイは知らなかった。だからカイはさらに腕に力をこめ、言葉を重ねた。

「…わかっている。離せというんだろう? いやだ、離したくない。私は……もう絶対に、お前を離したくない…」
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