聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
その時カイは空からふわふわと舞い降りてくる雪の中に、淡く青い光を放つものがあるのをみつけた。

それをすくってみたのは、深い意図があってのことではなかった。

ただその光があまりにも美しかったから、魅入られたように手をのばしていたのだ。

光る雪が掌に触れた瞬間――

カイの脳裏に鮮やかに記憶が蘇った。

母ユーリアが、その腕に丸々とした赤ん坊を抱いている。四歳のカイは目をまんまるにして眠る赤ん坊を凝視している。それというのも、赤ん坊の髪の色が見たこともないようなきれいな桜色をしていたからだ。

―花が咲いているみたいだ。

幼いカイはそう思って、おもむろに赤ん坊の髪を引っ張った。すると赤ん坊は目を覚まし、火がついたように泣きだした。

赤ん坊を泣かせてしまったくせに、カイはまったく反省していなかった。赤ん坊の瞳が薄紫色をしているのを見て感激していた。

宝石だ、と思った。こんなきれいな宝石見たことがない、と。

その時の感情に引きずられるカイの中に、違う感情が流れ込んでくる。

―やめて、いたい、ほうっておいて、ねむい、ねむい、ねむいのに、いったいなに――!?

そこで唐突に記憶が途切れた。

カイの掌の中で、ゆっくりと光る雪が溶けて消えていく。その一瞬の間に、カイは思い出を見ていたのだ。

「今のは…私の思い出と…リューの気持ち…?」

ここはリュティアの心の世界だとファラーガは言った。そこに侵入した自分と、リュティアの心がまじりあっているのだとしたら…?

光る雪の中の、リュティアの気持ち…これがリュティアの居場所への道しるべだと、カイは思った。

少し遠くに、また一粒、光る雪が舞い降りてくるのが見える。

カイはそれを追って駆け出した。この先にリュティアがいると信じて。

砂時計がさらさらと時の流れを示し続ける…。
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